研究概要 |
2001年から高齢者に対するインフルエンザ予防接種の費用の一部は公費により補助されることになった。初年度の研究では、(1)現行政策の費用効果について(2)補助率や補助対象が異なる他の補助政策の費用効果についての二点を明らかにするため、判断樹モデルを用いて支払い者の立場から費用効果分析を行った。研究結果では、(1)現行高齢者に対するワクチン接種政策は節約された医療費がワクチン接種費用と相殺できないため、費用節約的(cost-saving)な結果には至らなかったが、保険診療費の節減効果が認められた。政策実施前と比較した場合、1救命年(YOLS ; Year of Life Saved)当たりの費用は約67万円であった。(2)他の補助政策としては、基礎疾患を有するハイリスク高齢者にウェイトを置き、補助する制度は現行制度より費用効果的であることが示された。 初年度の研究結果の頑健性及びパラメーターの不確実性を検討するため、一元感度分析、多元感度分析及びモンテカルロシミュレーションを行い、初年度の研究結果とともにより多くの情報を意思決定者に提示することを目的とした。 罹患率5%の設定下で行った一元感度分析では現行ストラテジーのICER (Incremental Cost effect Ratio)の最も高い値は1YOLS当たり98.9万円で、それは死亡率を最も低く(13.3/10万人)設定した時であった。多元感度分析では、比較的流行の小さい場合及び比較的流行の大きい場合の二つのシナリオを設定し、分析を行った。ベース・ケースの各ストラテジーのICERに比べ、前者は1.4〜1.6倍増、後者は約1/2以下となった。モンテカルロシミュレーションでは、罹患率が3.5%と低い場合においても、現行政策の費用効果比は1,000回中900回以上の割合で100万円/YOLSの下方にあり、特定の医療制度が許容する一応の目安である1YOL当たり2〜5万ドルをはるかに下回った結果となった。一方、罹患率が12%、15%の流行が起きれば、現行政策はそれぞれ約25%、90%の確率で費用節約的(cost-saving)となることが示された。よって、初年度の結果は維持された。
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