研究概要 |
従来,がん患者の配偶者や家族にまで言及した研究は決して多くないが,がん患者の心理社会的適応にとって,家族のサポート体制が重要であることは論を待たない。そこで,乳がん患者とその夫の不安および抑うつに関連する因子について家族機能を含めて検討した。対象は,広島大学医学部附属病院乳腺外科において手術療法を受け,平均して約1年を経過した乳がん患者54名とその夫,計108名で,本調査への参加については患者と夫から文書同意を得た。Zung Self-rating Anxiety Scale (SAS)とZung Self-rating Depression Scale (SDS)にて患者と夫の不安と抑うつを,Family Assessment Device (FAD)にて患者と夫の家族機能認知を評価した。解析には,単変量解析において有意な関連のあった因子を投入して多変量解析を行い、患者と夫の不安および抑うつに関連する因子について検討した。多変量解析の結果,1)患者の不安には,患者の抑うつと悲観的対処様式が,2)患者の抑うつには,患者の不安,患者の感じる家族内の情緒的反応の不適切さが関連していた。3)夫の不安には,夫の抑うつ,夫の感じる家族内の情緒的関与の不適切さが,4)夫の抑うつには,夫の不安,社会経済的地位の低さが関連していた。すなわち,乳がん患者の抑うつには家族内の情緒的反応の不適切さが関連し,その夫の不安には家族内の情緒的関与の不適切さが関連していた。したがって,患者とその家族を含めた視点に立って家族内の良好な情緒的交流を促すような介入を行うことにより,乳がん患者と夫の不安・抑うつを軽減させうる可能性が示唆された。今回の横断的研究によって,手術療法後1年を経た乳がん患者とその家族の精神的健康度の指標となる不安および抑うつのレベルに,家族機能が密接に関連していることが明らかになった。今後はこれらの対象患者を縦断的に追跡調査して,手術療法後2-3年を経た時点における乳がん患者の精神的健康度を予測しうる家族機能を明らかにすることが必要である。
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