研究概要 |
欧米では1970年代からがんが家族に与える悪影響についての研究報告がなされ,また,がん患者とその家族への治療的介入法も提唱され,その効果の評価がなされるようになってきている。しかし,どういった家族に介入すればよいかについては,いまだ決定的な規準はない。そこで今年度われわれは,がん患者とその家族をFamily Relationships Index(FRI)で評価された家族機能によってタイプ分類し,治療的家族介入の指針を明らかにすることを目的として以下の研究を行なった。対象は,広島大学医学部附属病院乳腺外科において手術療法を受けた乳がん患者74例とその同居家族115名(夫54名,娘27名,息子19名,その他15名)の計189名で,本調査への参加について,患者からは文書同意を,家族からは患者を介して口頭同意を得た。Family Relationships Index(FRI)にて「凝集性」「表出性」「葛藤性」といった家族機能の認知を,Zung Self-rating Anxiety Scale(SAS)とZung Self-rating Depression Scale(SDS)にて不安と抑うつを評価した。そして,FRIによって評価された家族機能の「凝集性」と「葛藤性」に基づいてクラスター分析を行い,乳がん患者とその家族をタイプ分類し,各タイプにおける不安・抑うつのレベルを比較検討した。クラスター分析の結果,乳がん患者とその家族は,「凝集型」「中間型」「葛藤型」の3つの家族タイプに分類された。3タイプのなかで,「葛藤型」に有意に高いレベルの不安,抑うつが認められた。「葛藤型」を示す患者および家族には,早期からの治療的介入が必要である可能性が示唆された。がん患者とその家族への治療的介入に際し,家族機能障害のスクリーニング・ツールとして,Family Relationships Index(FRI)の有用性が示された。現在,これらの対象患者を縦断的に追跡調査したデータを解析中である。
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