本研究では疾患感受性遺伝子解明に不可欠な連鎖不平衡マッピング法を、より実践的な方法論として確立するために、ヒト遺伝子における連鎖不平衡の成り立ちを理解することを第一の目的とした。アフリカ系74人、中東72人、ヨーロッパ系48人、インド30人、および東アジア系144人からなる378人分のゲノムDNAを収集し、アンギオテンシノーゲン遺伝子塩基配列(14.4kb)を決定し、詳細な遺伝子多型地図を作成した。246の塩基配列多型(一塩基置換(235)、欠失/挿入変異(10)、CA-repeat(1))が認められた。さらに77人の日本人、88人の西洋人の集団サンプルを用い、両集団間で共通して認められた44個のSNPの遺伝子型を決定し、日本人と西洋人における連鎖不平衡の構造を詳細に解析した。両集団サンプルにおいてSNP間の距離が大きくなるにつれて連鎖不平衡の関係が弱くなる傾向が認められ、日本人に比べ西洋人サンプル集団で連鎖不平衡が保たれている傾向が認められた。しかし、SNP間の距離と連鎖不平衡の関係は、SNP間の距離が小さくても連鎖不平衡が認められない場合や、逆に非常に距離が離れていても強い連鎖不平衡の関係が認められ、連鎖不平衡の強さは単純にSNP間の距離により規定されるものではないことが示された。従来のゲノムワイド連鎖不平衡マッピングは"連鎖不平衡の強さは単純にSNP間の距離により規定されるものである"との仮説の基に成立しており、本研究の結果により疾患感受性遺伝子同定戦略については大きな見直しが必要であることが示された。今後はヒトゲノムにおける連鎖不平衡ブロックおよびハプロタイプ解析を行うことが、疾患感受性遺伝子解明に不可欠であることが示された。
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