真核生物は、遺伝情報を安定に保ち正確に発現して細胞分化を維持するために多様な機構を働かせいる。そのうち一つは、クロマチンと呼ばれるゲノムDNAの高次構造である。遺伝子発現の制御機構焦点をあてると、クロマチン構造そのものは転写抑制の方向に機能する。よって、クロマチン構造の変化をもたらす因子は遺伝子発現制御の基盤を成すものと考えられる。クロマチンはその凝集の程度によりユークロマチンとヘテロクロマチンとに分類される。発現が活性化されている遺伝子はユークロマチンの状態にあり、ヘテロクロマチンで特遺伝子発現は不活化され、HP1などの複数のヘテロクロマチンに特異的なタンパクにより構成されている。ユークロマチンからヘテロクロマチン、あるいはその逆の変換過程は未だ不明であるが、局所的なクロマチン構造変換とは異なり、広い範囲にわたる遺伝子発現制御機構の一つとして興味深い。 われわれは、本研究において、ヘテロクロマチンの形成に重要な役割を演じるHP分子とヒストンメチル化酵素SUV39分子の相互作用を解析し、HP1分子のダイマー形成がSUV39との直接的な相互作用に必須であることをまず明らかにした。さらにポリコームの一つであるSUZ12分子がヒストンメチル化酵素であるEZH2分子をHP1分子が結合するクロマチン上にリクルートし、ヘテロクロマチンの維持あるいは形成に関与する可能性を示した。これは、ヘテロクロマチンとポリコーム分子群による転写制御機構の機能的な関連を示している。 このように、本研究ではヘテロクロマチンの形成・維持に関わる分子機構の一端を解明し、特に、ポリコーム分子SUZ12およびEZH2分子の関与を明確に証明した。
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