研究概要 |
『心筋はその生体維持のため恒常的な拍動運動を必要とし、そのため複数のエネルギー産生経路を確保しているが、好気的代謝における主たるエネルギー供給源は長鎖脂肪酸である。心筋はその長鎖、脂肪酸からβ酸化によりエネルギーを獲得している。』この知見に基づき本研究ではβ酸化が阻害されるようにドラッグデザインされた[l-125]標識脂肪酸(9MPA :15-(p-[l-125]lodophenyl)-9-methylpentadecanoic Acid)を用い,動物実験(代謝物実験)により心筋の機能をエネルギー獲得系の点から評価することを試みた。 代謝物実験は9MPAを動物(正常ラットおよび心不全モデルラット)に投与し,その心筋における2種の主代謝物---貯蔵型代謝物およびβ酸化型代謝物---を二次元展開薄層クロマトグラフィー(TLC)にて分離し,続いて分離された分画の放射能計測より各代謝物の定量解析を行い,得られたデータから様々な状態(正常および心不全)における心筋のエネルギー獲得機能の評価を行った。その結果、心不全の心筋における貯蔵型代謝物の量は正常心筋に比べて著しく減少しているのに対し,β酸化型代謝物の量はほとんど変化していないことから、心不全の心筋においては脂肪酸の貯蔵能力に著しい低下障害が起きていることが示唆された。 また上記代謝物実験と併行して、心筋集積性の経時変化実験および心筋オートラジオグラフィー(ARG : Autoradiography)実験を行った。その結果心筋集積性の実験では、9MPAの心不全心筋への集積性は,正常心筋への集積性に比べて低下していることがわかり、更に心筋ARG実験では、上記心不全心筋への9MPA取り込みの低下および心不全における心筋の肥大化が確認できた。
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