弱毒単純ヘルペスウイルスベクターの神経筋疾患治療への応用のための基礎研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14572154
• 研究機関: 富山医科薬科大学
• 研究代表者: 黒川 昌彦 富山医科薬科大学, 医学部, 助教授 (80186527)
• キーワード: 遺伝子治療 / 単純ヘルペスウイルスベクター / 脊髄神経細胞 / 筋組織 / 神経筋疾患治療

研究概要

本研究では、これまで開発した弱毒HSVベクターの神経筋疾患の遺伝子治療への適応の可能性を明らかにすることを目的として、β-galを組み込んだHSVベクター(βHl)の脊髄前角神経細胞の機能に与える影響を検討する。さらに、βHlによる脊髄前角細胞機能解析実験を基礎として、神経細胞の栄養因子や成長因子等の遺伝子を挿入したHSVベクターを作製し、これら外来遺伝子の発現分布と脊髄前角神経細胞機能に与える影響をベクター単独の影響と比較検討する。これらを達成するため、本年度は以下に述べる研究実績を得た。
1.新たな組換えウイルスの作製:
βHlのβ-gal遺伝子を種々の外来遺伝子に置き換え、新たな組み換えHSVを作成できるカセットを作成した。現在、BDNFをこのカセットに挿入し、新たなHSVベクターを作成している。
2.脊髄、筋組織におけるβ-gal発現、活性の検討:
ラットの片側腓腹筋へのβH1接種後3ヶ月目の両側脊髄前角神経細胞、両足腓腹筋にβ-gal活性が認められた。この時、β-gal mRNAの発現も同定できた。接種後10ヶ月目では、脊髄前角神経細胞でβ-gal活性、mRNAの発現が認められたが、両足腓腹筋では検出されなかった。いずれの場合にも組織学的に異常な所見は認められなかった。
3.β-galベクターを用いた脊髄前角細胞の機能解析:
接種後3ヶ月目の両側の坐骨神経線維の刺激閾値、坐骨神経刺激による腓腹筋の刺激閾値は、非接種群と有意な差が認められなかった。
以上のように、電気生理学的機能への神経、筋組織でのβ-gal発現の影響が認められないことから、βH1の安全性が確認できた。今後、これらの結果を基にして、種々の遺伝子の組み換えHSVベクターの遺伝子発現の影響を比較検討し、本ベクターの遺伝子治療への適応の可能性を明らかにしたい。

研究成果

• [文献書誌] Kurokawa, M., Tsurita, M., Brown, J., Fukuda, Y., Shiraki: "Effect of interleukin-12 level augmented by Kakkon-to, an herbal medicine, on the early stage of influenza infection in mice"Antiviral Res.. 56. 183-188 (2002)
• [文献書誌] Ohsaki, M., Kurokawa, M., Nawawi, A.et al.: "Characterization of anti-herpes simplex virus type 1 activity of an alkaloid FK 3000 from Stephania cepharantha"J. Traditional Med.. 19. 129-136 (2002)
• [文献書誌] Akanitapichat, P., Kurokawa, M., Tewtrakul, S.et al.: "Inhibitory activities of Thai medicinal plants against herpes simplex type 1, poliovirus type 1, and measles virus"J. Traditional Med.. 19. 174-180 (2002)
• [文献書誌] Phumiamorn, S., Sato, H., Kamiyama, T., Kurokawa, M.et al.: "Induction of humoral and cell-mediated immunity to hepatitis B surface antigen by a novel aduvant activity of Oka varicella vaccine"J. Gen. Virol.. 84. 287-291 (2003)
• [文献書誌] Fukuda, Y., Yamamura, J., Uwano, T., Nishijo, H., Kurokawa, M.et al.: "Regulated transgene delivery by ganciclovir in the brain without physiological alterations by a live attenuated herpes simplex virus vector"Neuroscience Res.. 45. 233-241 (2003)