研究概要 |
本研究では、弱毒HSVベクターの神経筋疾患の遺伝子治療への適応の可能性を明らかにすることを目的とした。そこで、β-galを組み込んだHSVベクター(βH1)の脊髄、筋組織における外来遺伝子、ウイルス遺伝子の発現様相とこれらの発現にともなう脊髄、筋機能に与える影響を検討した。さらに、βH1を用いた結果を基礎として、神経細胞の栄養因子等の遺伝子を挿入したHSVベクターの作製を試みた。その結果、以下に述べる研究実績を得た。 1.脊髄、筋組織におけるβ-gal発現、活性の検討: ラットの片側腓腹筋へのβH1接種後3ヶ月目の両側脊髄前角神経細胞、両足腓腹筋にβ-gal活性、mRNAの発現が認められた。接種後10ヶ月目では、脊髄前角神経細胞でβ-gal活性、mRNAの発現が細められたが、両足腓腹筋ではmRNAの発現が検出されなかった。組織学的に異常な所見は認められなかった。 2.脊髄と脊髄後根神経節でのウイルス抗原分布の比較検討: βH1をラットの右腓腹筋に接種後10ヶ月後でも両側脊髄前角神経細胞にβ-gal、β-gal mRNA,ウイルス蛋白質gC, TKとそれらのmRNAが検出できた。しかし、脊髄には感染性ウイルスが認められなかった。長期での脊髄後根神経節でのウイルス遺伝子発現が認められないことから、脊髄後根神経節とは異なる脊髄での発現様相が明らかになった。 3.βH1を用いた脊髄前角細胞の機能解析: 接種後7日、3ヶ月目のラット両側坐骨神経線維の電気刺激閾値、坐骨神経刺激による腓腹筋の刺激閾値にβH1接種の影響が認められなかった。 4.新たな組換えウイルスの作製: βH1に種々の外来遺伝子を挿入するため、新たな組み換えHSVを作成できるカセットを作成した。現在、BDNF(神経栄養因子)をこのカセットに挿入し、新たなHSVベクターを作成している。 これらの結果、脊髄、筋で外来遺伝子、ウイルス遺伝子の発現が長期間認められたにもかかわらず、神経、筋での電気生理学的機能に影響が認められなかったことよりβH1の神経、筋での発現に対する安全性が確認できた。事後、BDNFを挿入したHSVベクターを用いて外来遺伝子発現による中枢神経系機能変化を明らかにしたい。
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