種々の炎症性サイトカインや細胞増殖関連遺伝子の発現調節に転写因子であるAP-1やNF-kBが重要であることが知られている。本研究ではシクロスポリンA(CsA)による腎間質線維化機序におけるこれらの転写因子の重要性について検討を行った。さらに、その他の腎間質線維化におけるNF-kBの役割、ならびに治療薬の効果を検討した。シクロスポリン長期投与において腎間質の線維化とともに腎におけるAP-1やNF-kBのDNA結合活性が亢進していた。一方、マグネシウム補給により腎問質線維化を抑制すると、これらの転写因子の変動も抑制された。さらにレニン・アンジオテンシン系の阻害を行うとマグネシウム補給の効果より弱いものの、これらの転写因子の抑制が見られたことからシクロスポリンの腎間質障害においてAP-1やNF-kBの活性化が重要であることを明らかにした。さらにシクロスポリンと同様、カルシニューリン阻害薬であるタクロリムスの長期投与時の遺伝子発現についてマイクロアレイを用いて2352遺伝子の発現を包括的に検討した。タクロリムス長期投与により腎間質の線維化に伴い、E-selectin、VCAM-1、fas antigen ligand、fas antigen、IL-6、G-CSF、u-PAなどNF-kBに依存する遺伝子発現の亢進が認められた。次にNF-kBの活性化が他の腎線維化モデルにおいても、同程度に存在するかについてNF-kB阻害作用を有するPDTCおよびプロテアソーム阻害薬を用い、片側尿管閉塞ラットで検討したところ、同薬剤は本モデルにおける腎線維化を抑制した。さらに胃亜全摘による慢性腎不全モデルにおける腎線維化が尿毒素物質吸着剤であるクレメジンにより軽減されること、さらに、その機序にNF-kBの活性化の抑制が関与することが明らかとなった。
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