研究概要 |
近年、中枢疾患に対し微量で強力な効果を示すペプチドや蛋白が発見され、治療薬としての大きな期待が寄せられている。本研究では、脳へのペプチドデリバリーにとって最も利用価値が高いと予想される吸着介在型輸送系の分子論的かつ機構論的解明を目的とした。本年度は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF, Deguchi, Y. et al. Pharm. Res., 17, 63(2000))をモデル化合物とし、血液脳関門(BBB)細胞における本輸送系の機能解析および膜表面受容体の発現について検討した。BBBのin vitroモデルとして遺伝子改変マウスから調製した条件的不死化マウス脳毛細血管内皮細胞株(TM-BBB)を用いた。まず、TM-BBBにおけるbFGFの結合解析を行なった。bFGFのTM-BBB4への結合は濃度依存性を示し、結合の親和性を示すKd値は76nM、最大結合部位数Bmax値は183pmol/mg proteinであった。この結合はヘパリン、コンドロイチン硫酸B、フコイダンによって阻害された。さらに、塩素酸ナトリウム処理によるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HPSG)除去細胞でbFGFの結合は有意に低下した。これらの結果から、BBBにおけるbFGFの輸送系にHSPGの関与が示唆された。次にBBBにおけるHSPGおよびbFGF関連受容体の発現をRT-PCRと免疫染色により検討した。その結果、HSPGコアー蛋白の一つであるマウスパーレカンおよびFGFR1、FGFR2が遺伝子レベルで発現していることが確認された。また、マウス脳切片を抗パーレカン抗体で染色し共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、BBBの細胞膜特異的にパーレカンが高発現していることがわかった。以上の結果から、BBBにHSPGを受容体とし、bFGFを輸送する吸着介在型輸送系の存在が明らかとなった。本研究で得られた成果はJournal Neurochemistry 83,381-389(2002)に発表した。
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