近年、中枢疾患に対し微量で強力な効果を示すペプチドや蛋白が発見され、治療薬としての大きな期待が寄せられている。本研究では、脳へのペプチドデリバリーにとって最も利用価値が高いと予想される吸着介在型輸送系に着目し、その分子論的かつ機構論的解明を目的とした。平成14年度は比較的分子量の大きい塩基性線維芽細胞成長因子bFGF(分子量18kDa)をモデル化合物とし、血液脳関門(BBB)細胞における本輸送系の機能解析および膜表面受容体の発現について検討した。まず、条件的不死化マウス脳毛細血管内皮細胞株(TM-BBB4)をin vitroのBBBモデルとし、bFGFの輸送機能について解析した。その結果、bFGFは細胞膜に発現するであろうヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)を介してエンドサイトーシスすることがわかった。次にBBBにおけるHSPGの発現を遺伝子およびタンパクレベルで検討した。HSPGのコアー蛋白であるパーレカンがTM-BBB4および脳切片に発現していることがわかった。以上の結果から、BBBにはHSPGを受容体とする吸着介在型輸送系が存在し、bFGFを輸送することが明らかとなった。平成15年度はμ_1オピオイド受容体に特異的に結合する[D-Arg^2]dermorphin tetrapeptide誘導体TAPAを塩基性ペプチドのモデル基質とし、吸着介在型輸送系の機能について検討した。その結果、BBBにはTAPAのような比較的小さな塩基性ペプチドを運ぶ吸着介在型輸送系が存在することがわかった。さらに、この輸送系はbFGFが関与する輸送系とは別のシステムであることが示唆された。本研究期間内において、研究代表者はBBBに少なくとも2つの吸着介在型輸送系があること、また、その分子機構の一部にHSPGが関与することを明らかにした。
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