研究概要 |
ラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞に、接着斑キナーゼ(FAK)ならびにその変異型遺伝子(Y397F, K454R,またはY925F)を導入した過剰発現細胞を作製し、神経栄養因子(NGF)で神経細胞様に分化誘導した後、細胞死に対する感受性を検討した。また、抗アポトーシス分子であるbcl-2ならびにbcl-XL遺伝子を導入させた細胞も作製し、その細胞死に対する感受性を比較検討した。 1.bcl-2ならびにbcl-XL遺伝子導入細胞は、酸化ストレス(ロテノン,ドパミン,H_2O_2)、小胞体ストレス(ブレフェルジンA,タプシガルギン)に対し、顕著な耐性を示し、caspase-2および-3の活性化も抑制した。 2.FAK遺伝子を過剰発現させた細胞では、酸化ストレスによる細胞死に対し抵抗性を示す傾向を示した。 3.FAKの自己リン酸化部位の変異体であるY397F遺伝子導入細胞では、酸化ストレスや小胞体ストレスによる細胞死がベクター細胞に比べて2〜3割増加した。 一方、触媒部位の変異体であるK454R遺伝子導入細胞は、上述の刺激により誘導される細胞死に対し、明らかな抵抗性を示した。ロテノンによるカスパーゼ-2および-3の活性化も、ベクター細胞に比べY397F遺伝子導入細胞では強く生じていたのに対し、K454R遺伝子導入細胞ではほとんど認められなかった。C末端部分の変異体であるY925F遺伝子導入細胞では、ベクター細胞と同程度の細胞死を生じた。 4.Y397FとK454R変異導入細胞で細胞死に関わる種々のタンパク質の発現を比較検討したところ、Y397F遺伝子導入細胞では生存シグナルを担うAKTの発現量が減弱していたが、Bcl-xLの発現に変化はなかった。これらの変異は共にFAKのキナーゼ活性を低下させると考えられるが、細胞死に対しては相反する結果を示したため、今後各細胞についてシグナル伝達経路の変化を解析することが必要である。 5.いずれの細胞でもNGFによる分化誘導に違いは認められなかった。
|