研究概要 |
脊髄より発見したエンケファリン(ENK)分解酵素阻害物質・スパイノルフィンが、ブラジキニンを用いた薬理試験で強力な鎮痛活性を有し、G蛋白質を介さない新たな情報伝達機構に関与している可能性が考えられた、更に、構造活性相関により、本物質の活性発現にENK分解酵素のdipeptidyl peptidase III (DPPIII)が要として働いていることも分かってきた。今年度、1)スパイノルフィンが脊髄液中に存在かを分析し、本物質とENK代謝酵素がどのような痛みに関連しているかその動態解析を、および2)スパイノルフィン受容体の探索を、ラット脊髄細胞(シナプス膜画分)への放射標識したリガンドを用いて行った。 脊髄液は、東京都立駒込病院倫理委員会での承認を得た後、手術時に採取し使用まで凍結保存した。スパイノルフィンの測定は、試料を酸処理そしてODSカラムクロマトグラフィーにて前処理し、特異抗体を用いた酵素免疫定量法(EIA)により測定した。 1)本物質の定量に際し、ENK代謝酵素の影響を検討したが、EIAを用いた測定系に顕著な影響を及ぼさなかった。脊椎麻酔手術を受けた様々な患者由来の脊髄液中には、スパイノルフィンが15.2±21.8(0,14〜83.0,n=30)ng/ml含まれ、ENKなどのペプタイドと比較して高濃度存在していた。現在、本物質のレベルと病態との関連性を明らかにするため、データの集積を進めているところである。 2)ラット脊髄のシナプス細胞に対する標識スパイノルフィンを用いての結合実験から、結合定数Kd=16nMの結合タンパク質を同定した。本タンパク質がスパイノルフィンに対する生理的な特異受容体であるか、また従来のオピオイド受容体との関連性など、今後検討していく。
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