脊髄に高濃度存在するスパイノルフィン(LVVYPWT)は、発痛物質・ブラジキニン(BK)を用いた薬理試験において鎮痛活性を有するが、モルヒネ等のオピオイドと異なる新たな情報伝達機構を介して疼痛制御機構に働くことを明らかにしてきた。更に、プロテアーゼ阻害活性を有する本物質関連化合物を駆使した薬理試験で、DPPIII(dipeptidyl peptidase III)がスパイノルフィンの活性発現に重要な役割を果たしていることが分かった。本研究は、疼痛患者の脊髄液におけるスパイノルフィンとDPPIII活性がどのような痛みに関連しているか、その動態解析を行ない、更に脊髄における受容体解析を行なった。 疼痛患者の脊髄液におけるスパイノルフィンレベルは、無痛患者(コントロール)と比較して、2.5倍の増大が認められた。更に、急性・慢性両疼痛群における本物質のレベルはコントロールと比較して増大傾向にあったが、両者間で有意の差は認められなかった。一方、本物質が抑制活性を持つDPPIIIは疼痛群において30%の減少が認められ、その傾向は慢性群と比較して急性群において顕著であった。興味深いことに、本物質とDPPIIIの両者間には統計的に有意の負の相関が認められた。また、本物質が見い出された脊髄に注目し、その膜画分中に特異的なレセプターが存在するか、ラジオレセプターアッセイ(RRA)により探索した。[^3H]spinorphinが、シナプス膜画分と特異的に結合するタンパク質を見い出した。Scatchard plotによりspinotphinはこのタンパク質と親和性が高いことから(Kd=1.6x10^<-8>M)、脊髄に本物質のレセプターが存在する可能性が考えられた。 本物質および関連物質が、ブラジキニン発痛系において鎮痛作用を示し疼痛制御の可能性を報告している。今回、スパイノルフィンおよびDPPIIIが疼痛患者の脊髄液において顕著な動態を示すことから、両物質を介した疼痛制御の更なる可能性が示唆された。今後、慢性病態の関節リウマチ患者における関節液・脊髄液を用いて、疼痛・炎症制御物質としてのスパイノルフィンの病態関連性を追究していきたい。
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