血清IgGのFc部分には、アスパラギン結合型の糖鎖が付着しており、IgGの3次構造維持に関与している。その構造はmannose coreの非還元末端にガラクトースを0個(GO)と、1個(G1)、2個(G2)もつ糖鎖の3種に大別される。糖鎖はIgGの活性に深く関わり、Fc部分を介したマクロファージ貪食能は、G2やフコースを持つIgGで高いことが知られている。従来の免疫グロブリン製剤は糖鎖の違いを加味していなかったが、もし活性の高い糖鎖をもつIgGが選択的に投与できれば、感染症の治療に新たな武器となることが期待される。とくに妊婦のIgGは胎盤を通過するため、活性度の高いIgGを母体に送り込めば、新生児の免疫能向上にも寄与できる。我々は臍帯血IgGの糖鎖パターンを分析してきたが、本研究ではまず母児間の糖鎖比較を行い、免疫能との比較を行った5妊婦と新生児の母体血と臍帯血を用い、我々の開発したFMOCを標識物質とする、HPLC法で糖鎖分析を行なった。その結果、GOでは、r=0.93と母児間で強い相関がみられたが、G1、G2では明らかな相関は見られず、臍帯血ではGOが母体血よりも有意に少ないことがわかった。G2は母児ともにIgGの主体をなし、G2の臍帯血中濃度は低出生体重児で低い傾向がみられ、胎盤機能を反映している可能性が推定された。 一方、マクロファージの活性に影響を与える酸素濃度についても同時に検討を行った。通常の血液ガス分析では採血した瞬間の酸素化状態を見ているに過ぎないため、今回はischemia modified albumin(IMA)を指標にした。IMAは、低酸素状態によってアルブミン蛋白に不可逆的な変性をきたした物質である。その結果、合併症を有する群ではIMA値が有意に高く、低酸素の影響がマクロファージ機能低下をもたらし、易感染性に寄与する機序が推定された。
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