研究概要 |
1.異常ヘモグロビン(Hb)は,不安定性による溶血性貧血,酸素親和性異常による多血症,チアノーゼなどいろいろの異常病態や赤血球形態異常の原因となる。このため外科的疾患を有する患者の手術前には,患者血液に関するいろいろの知見を得ておくことは重要と考えられる。外科手術前に調べた患者の末梢血液像は球状赤血球像を示し,また,赤血球の酸素親和性は低下を示したことから,患者の赤血球あるいはHb異常が疑われた。詳細な血球計測,Hb分析,Hb生合成試験,またHb構造及びDNA解析から,βグロビン鎖の69位70位の間にアミノ酸残基2個の挿入,6塩基対の挿入を認め,新型の不安定性のHb Nishinomiyaを同定し,患者の血液学的異常の原因を明らかにした。 2.ミャンマー国立医学研究所との共同研究でミャンマーのサラセミア(thal)患者検体について病態解析をDNA-ARMS法,シーケンス法による簡易解析を進め,ミャンマー人のβ-thalの変異体の大部分は4種(CD17A→T, IVS I-1G→C, IVSI-5G→C, CD41/42TTCTTT→TT)に集約される,また,α-thal変異体は-α3.7と--SEA型のα-thal-2とα-thal-1変異体に,また,異常HbはHb Eのβ+thal様が大部分であるが,β0-thal様の異常HbにHb Monroeを検出した。 3.ミャンマーはマラリアの浸潤地でもあり,マラリア感染とthal症や異常Hb症との関連は興味あるところである。マラリア原虫のリボソームRNA由来の素因の検出をPCR法で行い、山岳地帯の住民ボランティア検体についてスクリーニング検査法の確立を試みた。また,重篤なthal症患者の検体を用いマラリア感染についても調べ,thalや異常Hb症のマラリア感染と発症について検討した。
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