研究概要 |
有明海周辺はビブリオ・バルニフィカス感染症の多発地域である。我々はまず予備研究として、2001年から有明海のビブリオ・バルニフィカスの生息調査を開始し、その過程で分離培養されたビブリオ・バルニフィカスの菌株を使用して、2002年から2004年にかけて細菌学的解析、遺伝子学的解析、および迅速診断法の開発研究を行った。 毎月2回、大潮の日に、有明海の3定点で海水と干潟汚泥を採取し、ビブリオ・バルニフィカスを分離同定し、最確数を算定した。同時に、柳川市内の特定の鮮魚店より有明海産の魚介類を購入し、その内臓で検索を行った。海水からの最確数は、1月から5月までは検出数が少なく、6月より徐々に増加し、7月、8月、9月にピークに達した。10月からは徐々に減少したが、最確数ゼロの月はなかった。干潟汚泥からも年間を通して分離同定された。また、ほとんどの魚介類からも分離同定され、季節は夏期が多いが、夏期以外にも分離された。 分離されたビブリオ・バルニフィカス菌株の溶血活性は、夏期分離株はすべて活性が高く、夏期以外の分離株は活性の高い株と低い株とが半数ずつ認められた。87菌株について薬剤感受性を調べると、CAZ, CP, MINO, IPM, OFLXが良好な感受性を示した。パルスフィールド・ゲル電気泳動法による遺伝子解析では、チオ尿素を50マイクロモル加えると鮮明なバンドパターンが得られた。なお、ビブリオ・バルニフィカス特有のバンドパターンは確認できなかった。迅速診断法については引き続き開発研究中であるが、有明海には年間を通してビブリオ・バルニフィカスが生息していることを確認できた。また、溶血活性の高い菌と低い菌との2種類が存在し、溶血活性が高く毒性が強いと考えられる菌が、数の増減はあるが年間を通して生息していることが確認された。この事実は、慢性肝疾患、あるいは免疫不全状態の人は、年間を通して有明海産の生の魚介類の摂食を控えるべきであることを示している。
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