【研究目的】日本文化において、終末期にあるがん患者を看取る看護師の感情労働の実態について明らかにする。現在、日本においては、癌であることを本人に伝えるかどうかいわゆる'がんの告知'に対する認識とその実態が'非告知'から'告知'へときわめて流動的な状態にある。このことは末期がん患者を看取る看護師の感情労働に大きく影響を与えると推測できるため、今年度は、がん告知に対する看護師の認識を明らかにする。 【研究方法】京滋地区の300床以上の4病院(都市、地方部二箇所ずつ)に勤務する看護師792名に郵送法による質問紙調査を実施した。質問紙は、「看護師の立場」、「自分または家族が末期がん患者であるという想定時」から、がん告知に対する認識を問うものを作成した。調査期間は、平成14年10月から11月であった。 【結果】「患者にとってがん告知は必要か」に対して、'とてもそう思う'19.8%、'ややそう思う'70.6%、'あまりそう思わない'9.5%、'まったくそう思わない'0.1%であった。がん告知を肯定的に捉える看護師の理由は、'患者が、今後の生き方を選べるため'99.4%、'患者には知る権利があるから'98.5%、'患者が自分の受ける医療に意思表示できるから'97.9%、'看護しやすいため'44.3%であった。否定的に捉える看護師は、'患者の家族が告知しないことを希望しているため'83.1%、'患者が希望しているため'82.6%、'患者が、がんを受け入れるのが困難であるため'79.7%、'患者の動揺に対応できる自信がない'58.9%、'告知しなくても暗黙の了解の中で経過していくのが良いから'30.4%で、'看護しやすいため'28.2%あった。 「自分自身が末期がん患者の場合の病名告知」については、'知らせて欲しい'96.2%、'知らせて欲しくない'3.8%で、「家族が末期がん患者の場合の病名告知」では、'知らせて欲しい'81.9%、'知らせて欲しくない'18.1%であった。 【考察】看護師は、がんの病名告知に対しては肯定的に捉える傾向があるが、家族の希望や末期がん患者が病気を受け入れる困難性、動揺に対応することへの自信のなさが伺え、このような認識が末期がん患者を看取る際の感情労働に影響すると推測される。
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