作業所を利用する統合失調症圏障害者が、地域からの分離と非包括(anti-inclusion)に固定化されることなく、労働を含む生活世界を拡大し希望をもって社会生活を送ることを作業所が如何にプロモート出来るか、その手立てを明らかにするために、2002年5月から2004年2月までの20ヶ月間S市中作業所の職員及び利用者の協力を得てミューチュアルタイプアクションリサーチを実施した。作業所利用者は一日平均16名強、その殆どが統合失調症、他にアスペルガー症候群、境界人格障害等多様であった。研究開始前の処遇は「利用者に負担を負わせない昼間の居場所」と位置付け、再発を怖れ病状の安定にのみ気を配り専ら庇護的に利用者に対していた。従って利用者は職員に過度に依存し且つ無為の状態で滞留し、作業所は変化の乏しい空間であり職員はその事に疑問を感じていた。研究組織は、研究者2名、施設長、直接処遇職員2名の5名で構成した。研究方法は、アクションリサーチに参与観察、ケースカンファランスによるスーパーヴィジョン、研修会、文献学習を併用し、処遇の方法理念として「リカヴァリー」を位置付けた。 20ヶ月間のaction-reflection spiralは、(1)再発予防を意図した危機介入、(2)利用者一人ひとりの回復像を職員が共有することとケース記録や処遇日誌等の整備、(3)利用者のナラティブから見えたリカヴァリー形成過程の共有、(4)ソーシャルワーカーの生活的視点に基づく支援手法の定立、(5)社会規範との関連で利用者の努力目標を設定する意味の共有、(6)職員の職業倫理的高次化、(7)グループワーク導入、(8)長期的対応を要する事例の同定という8つの実践的成果をもたらした。 その帰結として、利用者は現実的主体的自己像を語り始め、職員は低い給与や不当な社会的評価に起因する福祉職員の内的差別意識に目覚め、権利主体としてエンパワリングされた。
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