本研究は、民間薬物依存リハビリ施設ダルク(スタッフも全員、薬物使用が止まっている薬物依存者であることが特徴である)のスタッフおよびスタッフ研修生を対象とした継続的な面接調査をもとにして、薬物依存者の回復過程における体験と認識を明らかにしようとするものである。今年度は最終年度となり、研究対象者の中には、スタッフ経験を経て、ダルクの外で就労している者も3名になった(うち2名は就労後も面接を継続した)。研究対象者の語りの質的分析を通して、以下の内容を確認できた。 1.薬物使用が止まっている状態で、スタッフとしての実務経験を重ねる中で、自分自身の(薬物を使用する以前からの)対人関係上の問題が周囲の人々との間で表面化してくる。しかし、それを自覚することを機会に、自己をつくり直していくことが可能となり、結果として、薬物の使用に至るような対人関係上のストレスの激化を回避して生活できるようになっていく。→対人関係上の問題のダルク内での顕在化は、回復過程にとって促進的にはたらく。 2.回復過程において、施設内外での自分自身の役割の拡大や経済的条件の向上、あるいは就職や結婚といった将来的な目標の達成の是否が、回復の指標であるかのように考えてしまう傾向もある。そしてそうしたことに拘泥して自分自身の内面の変化を軽視してしまうこともある。逆に施設内外での自分自身の役割を外的な要因(他社からの提案や施設移動等)により手ばなすことが、自分自身の内面に意識を向かわせることになる場合もある。→スタッフとしての役割からいったん離れることは、回復過程にとって必ずしもマイナスではない。 3.薬物使用が止まっている状態で、ギャンブル、過食、買物、異性とのつき合い等への依存の問題が顕在化することもあるが(クロスアディクション)、生じた問題を自分の問題として認め、言語化することより、これらを自分自身を理解するための学習材料として活用することも可能になる。→クロスアディクションによる問題はオープンにするとよい。
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