本年度は、看護部長の倫理的意思決定が、状況の重要度によって左右されるものか否かを明らかにし、看護部長の倫理的意思決定プロセスモデルの洗練を行うことを目的とした。 研究協力者は看護部長とし、研究の趣旨説明を行った後、自由意志で研究参加を決められることや、個人や組織の属性に関する情報は一切データ化しないことなどの倫理的配慮を行った。合計6名の看護部長に、誤薬による副作用の程度を段階的に示し、それぞれの状況において事実を患者や家族に公表するか否かを尋ねた。その結果、どんな状況でも公表するという者もいれば、状況によって公表するかどうかの判断は変わるという者もいた。前者の看護部長が所属する組織では、誤薬がおきたときにそれを組織として検討するシステムが整備されており、そのシステム整備に対して強いリーダシップを発揮するトップが存在することが明らかになった。 また、公表するときには、「患者に誠意を示すべきだ」という価値観が影響しており、公表しないときには、「患者/家族に余計な不安や恐怖感を与えるべきではない」「病院のマイナス評価につながるいざこざを起こすべきではない」という価値観が影響していた。 さらに、フォーカスグループを形成し、組織の方針やトップのコミットメントが、看護部長の価値観にどのような影響を与えているのかを探索した。その結果、病院組織が主体的に変革を起こすことは難しく、社会から変革の要請が強まったことを受けて病院組織が変わり、それを受けて看護部の方針および看護部長の価値観が変わることがわかった。すなわち、組織のトップは社会の情勢や環境の変化を敏感に読みとり、組織を適切な方向に向かわせる力を備えることが重要であるということと共に、病院組織の中の倫理課題を社会にオープンにしていくことへの抵抗が否めないために、それに巻き込まれている管理者たちを支援する仕組みが必要であることが示唆された。
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