本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それら対象に対してなんらかの関わりを持とうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。本研究の最終的な目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかでこの現象がみられる割合や傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し当該現象を明らかにすること、また人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用できる方策を検討することである。研究者は平成11年度より、本研究のテーマである老年期痴呆者にみられる「人形現象」について調査を実施し、その傾向特性について明らかにしてきた。今回の研究では平成14年度から17年度までの4年間で縦断的に人形療法の効果を痴呆の程度、日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)の3つの点から測定し検証することを目的としている。 平成14年度は、介護保険適応施設に入所中のいずれも人形を人形と認知せず人形に積極的に感心を示し関わりを持とうとする9名(うち男性1名、女性8名)と、人形を人形と認知した上で積極的に関わりを持とうとする2名(女性)の計11名を対象として、1ヵ月後、3ヵ月後の痴呆の程度、日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)の3つの点を測定した。また、参加観察法を用いて日常生活、コミュニケーション、問題行動の有無などを観察してデータを得た。対象者の背景は、年齢85.91歳(SD6.91)、痴呆の程度はHDS-Rで6.82(SD5.10)、要介護度はIIが5名、IIIが4名、IVが2名(車椅子使用)であった。11名はいずれも人形への関心は3ヵ月後、6ヵ月後も持続し痴呆の程度、ADL、QOLともほとんど変化が見られなかった。行動面においては徘徊が減り表情が穏やかになり他の高齢者や介護スタッフに対してコミュニケーションが増えた対象者が多く見られた。整容や排泄の自立ができるようになった者が2名いた。来年度においてはさらに対象者数を増やし検証していく予定である。
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