研究概要 |
本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それらの対象に対して何らかの関わりを持とうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。この研究の最終的な目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかで当該現象のみられる度合いや傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し当該現象を明らかにすること、及び人形を痴呆高齢者のケアやレクリエーションとして活用するための方策を検討することである。今回の研究では、平成14年度から17年までの4年間で縦断的に人形を使った痴呆性高齢者への効果を痴呆の重症度、日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)の3つの視点から測定し検証することを目的としている。 本研究では、平成14年から老人保健施設に長期入所中の痴呆の高齢者11名(うち男性1名、女性10名)に対して継続的に参加観察を行ってきた。平成14年度の調査では、対象者全員が痴呆の重症度、ADL、QOLとも変化が見られなかった。平成15年度も同様に上記の対象者に対して調査を行った。また、新たに人形に対して反応を見せた痴呆の高齢者3名を加えて14名の対象者とした。対象者の背景は、年齢86.88歳(SD6.70)、痴呆の程度はHDS-Rで5.1点であった。14名はいずれも人形への関心は持続しADL, QOLについても有意差はなかった。しかし、最も人形を「我が子」として世話をし続けている女性については、HDS-Rに大きな変化は見られず痴呆がより重症化したりADLが低下することはなかったが、人形を介したトラブル(他の高齢者と人形を取り合う、他の高齢者の人形も自分の所有であると認知してしまうなど)は増え、介護者が人形を一時的に取り上げて様子を見るなどの対処がとられたこともあった。このように、痴呆が進行することで見られるトラブルなどの人形を介した不利益については、考慮していく必要があることが示唆された。
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