研究概要 |
平成16年度までの調査で当該現象が見られる痴呆性高齢者10名(うち在宅生活者3名、施設(老人介護保健施設)生活者7名)の日常生活を、人形を与える前と与えた直後、6ヵ月後の一定期間をビデオ映写機で記録し、これらの刺激と行動の関係をパーソナルコンピュータと統計ソフト(SPSS)を用いて、量的に分析した。また、参加観察法及び相互行為分析の手法を用いて、対象者が示した行動の質的分析を行った。用いた人形は、平成11年度からの研究で、生後6ヶ月程度の大きさの乳児に似せたビニール製がもっとも愛着行動が強いことが明らかとなったことから、高齢者用ベビー(高研製)の人形を用いて調査を実施した。人形を与える前と与えた直後と6ヵ月後において、その効果を日常生活動作(ADL)、痴呆の程度、生活の質(QOL)の3つの側面から測定した,具体的な測定方法は、痴呆者のQOL測定の困難性を考慮した上で、痴呆者自身の主観的QOLとその介護者からみた客観的QOLの両方から評価した。痴呆者自身の主観的QOL尺度としては、The Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life(SEIQOL)と、The Quality of life Assessment Schedule(QOLAS)を採用した。介護者からみた客観的QOLを評価する尺度は、Quality of Life-AD(QOL-AD)を用いた。QOL-ADは、痴呆者と介護者の両方からの評価を得る方法で、13項目より構成されており、各々をpoor, fair, good, excellentで評価した。日常生活動作(ADL)については、機能的自立度評価法(Functional Independence Measure, FIM)を用いた。痴呆の程度については、これまでの研究で用いた改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)と行動面から痴呆の評価が可能,なClinical Dementia Rating(CDR)及び柄澤式「老人知能の臨床的判定基準」の2つを用いて測定した。 平成16年度までの調査結果で、痴呆の程度とADLレベル、QOLでは対象者全員に有意差のある変化は認められなかった。しかし、転倒し骨折した痴呆の女性に一時的に入形を離した結果、認知障害が悪化した例が認められた。
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