研究概要 |
本研究では、「人形」を我が子のように反応して世話をする認知症高齢者に対する愛着形成などの反応の傾向を日常生活の中で参加観察法を用いて把握する調査をプレテストとして行った。その上で、平成14年度から4年間をとおした調査を行い「人形現象」がみられた認知症高齢者の日常生活行動(ADL)、認知症の程度、生活の質(QOL)の3つの側面から縦断的に調査を行った。対象者は、介護老人保健施設に入所または通所している認知症高齢者15名(男性3名、女性12名)である。調査対象者本人とその家族に文書及び口頭で研究に関する説明を十分に行い同意を得た。また、調査途中での中断が可能であり中断しても何らの不利益も受けないことを説明した。調査方法は、ADLについては機能的自立度評価法(Functional Independence Measure, FIM)、認知症の程度については改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、QOL尺度は主観的尺度としてThe Quality of Life Assessment Schedule(QOLAS)、客観的QOL尺度としてQuality of Life-AD(QOL-AD)を用いた。以上の3点について縦断的に調査したが、3年間という期間内においては「人形現象」を示す認知症高齢者はADL,認知症の重篤度、QOLとも有意に差が無く、「人形」を抱いて世話をすることは認知症高齢者の身体機能面、精神機能面、生活の質に何らかの刺激を与えていることが示唆された。 また、半構造的面接または参加観察法を用いて得た質的データでは主観的データとして「人形」は認知症高齢者にとって「生活する上での張り合い」「いることが当然」の存在であるが、「人形」の世話で「しんどい」「他に何もできない」存在でもあり負担になっている時もあることが示唆された。「人形」を抱っこしていることで周囲の者から目立つことで介護者から声をかけてもらいやすくなりケアされることが増えるなどの利点がある一方で、他の認知症高齢者から理解を得られず「呆けている」等の言葉を受けるという面もあった。また、世話をする反面、「人形」に着せている服を脱がせて引きちぎるなどの行為があった。男性の場合は「人形」を性的な道具として用いていた場面も(1例)存在するなど「人形」を用いる場合は介護者が配慮する必要があることも示唆された。
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