我が国には、火傷や交通事故のように後天的な障害で、あるいは先天性疾患が原因で明らかに「ふつう」とは異なる容貌を持つ人達が約40万人いると推定されている。彼らは、顔が普通とは異なるというだけで就職や結婚など社会的な様々な局面で差別を受けているのが現状である。しかし、我が国では顔に疾患や障害があるということでボディイメージの変容はあるが、それが直接的に生死に直接関係がないことが多いため、彼らの抱える苦悩や問題を直視して研究してこなかったし、彼らの存在すら正確に認知されてはいない。 研究代表者藤井自身が血管腫という病気で顔の右半分に障害があり、自らの日常生活と社会生活を通して社会の偏見と蔑視に直面してきた。今回のインタビュー、アンケート、電話等の調査により、当事者、容貌障害者をかかえた家族や関係者から、差別、偏見などからの人間の安全と尊厳を保障するために最も力を入れるべきだと指摘されたのが、当然のことながら「教育」であった。教育の出発点は他者の痛みや苦しみから目を背けるのではなく、それらを自身の問題として真正面から向き合う中で自己の生命を鍛え上げることにある。その中でも、人間基礎教育である「人権教育」こそ、差別、偏見のない社会を築くための礎えとなることが再認識された。とくに次代を担う小学生、中学生など学校教育に焦点をあてて「平和と共生の地域社会」づくりにつながる人権教育の推進に力を入れてほしいという強い要望が数多く出された。こうした要望を達成するため、また、広範な社会の理解を促すため、研究代表者が当事者、家族、学校、地域と一体となった実践活動の一端を成果報告書にて明らかにする。
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