4年間の研究活動では、A医療施設の看護部門と共同したリスクマネジャーによる安全管理システム構築の研究と、医療事故の体験を持つ看護者への面接の語り(メタ認知支援)を分析した結果から、以下の成果が得られた。 前者はリスクマネジャーによる事故報告書に基づく活動を事例毎に分析して安全システムの構築に果たす機能を明らかにした。その機能は"事故防止対策"、"倫理追求"、"組織活性"の3カテゴリーに類型化された21要素が抽出された。 後者は、B県内の医療施設で事故の体験を持つ看護師22名(事故時の看護歴1年から40年目)の面接データからグラウンデット・セオリー法による継続比較分析によって事故の予見が攪乱を受ける臨床体験の構造を明らかにした。倫理的配慮のもとで収集した23例の事故は患者影響レベル0(なし)〜V(死亡)で、事故の予見を持つ9例と与薬ミスなど予見のなかった例を比較した。結果は、看護師が予見した患者のリスクは「リアリティーの攪乱」を受ける構造を持ち、「予見の生成(リスクの教示・異変の察知・介入に伴うリスク・対処力の評価《自己・物理的条件・組織》)」、「予見のリアリティー(事態の切迫・予見の確信・回避の見積もり・回避の遂行)」が「予見の乱れ(情報密度の乱れ・回避不全・責任意識の歪み・予見の変更)」によって発生する14サブカテゴリー(括弧内)で構成された。これらの調査によって(1)事故の体験を(面接で)語ることはリスク感性を覚醒させることとなり、その体験と向き合うことが学習となること。(2)臨床には、看護師が予見した患者のリスクがその(予見)リアリティーに攪乱を受ける構造があることを明らかにした。看護者の臨床におけるヒューマンエラーとしてリスク予防のより有効な概念と示唆された。
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