本研究はヒトゲノム計画の第一段階である塩基配列特定のほぼ完了した状態である現代以降、ヒト遺伝学の次の研究目標が徐々に達成されていく過程で、そこから生じてくる文化的、社会的、思想的、哲学的問題群を思考実験的に考察し、それらの変化に向けての適切な社会政策や科学政策の提言をし、またはその思想的意味の充全の開示を目指すものである。本年度は第二次年度であり、文献収集も基本的なものは本年度でほぼ完了した。あとはその総合的な分析が次の年度から集中的に開始される。 本年度の成果としては、まず1年ほど前に執筆した英語論文"Philosophy of Genetic Life Designing"が2003年夏にドイツの重要な雑誌『教養と教育哲学のための年報』に公刊されたということがある。これは私がいままでに書いてきた英語論文のなかでは最も重要性の高いものである。ドイツ側の編集部にも高い評価をえている。 また、本年度は、なんどかこの話題での邦語、英語両方ともの研究会での研究発表を行った。たとえば大阪大学での国際シンポジウム、筑波大学での国際シンポジウム、京都での将来世代財団主催の京都フォーラムでの邦語発表などが、その代表的なものであり、そのいずれにおいても活発な反応をえた。 本研究のいくつもある主題のなかでは生殖補助医療、再生医療にかかわる倫理的問題と、私がリベラル新優生学と呼ぶ欧米での新たな動向の意味と射程の分析という主題が、最も重要なものだ。本年度は、その両方ともにおいて、かなりの具体的成果をあげることができた、と考えている。
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