研究概要 |
昨年度に続き,オイラーの剛体の運動に関する理論の検討を行なうとともに,研究の視野を広げ,1730年代の『力学』から1760年代の『剛体の運動理論』までの,多くの力学関連の論文における,彼の力学理論の発展に関する研究を始めた.オイラーの力学理論はけっして一夜にして出来たものではなく,暫定的に大きく3つの時代に分けることが可能である.すなわち1730年代の『力学』の時代,1740年代後半に固定座標系と運動方程式を導入した時代,さらに1750年代の剛体の運動理論を確立した時代である.この時代区分についてはさらに分析を進める必要があるが,理論的展開の中で運動方程式の位置付けも変わっており,力学の基盤に関する彼の思想も変化したと考えられる.またこれまではもっぱら質点と剛体の運動理論を検討してきたが,流体力学の問題や最小作用の原理が力学理論全体の発展においてどのように関わっているのかを検討することが肝要である. また18世紀における力学の解析化の頂点と考えられるラグランジュの『解析力学』における,静力学および動力学に関する歴史的記述の検討を開始した.この研究から,当時の研究者が描いている力学という学問のイメージは我々のものとは大きく異なることが理解される.たとえば,彼らにとっては,運動方程式は力学の諸法則の1つにすぎなく,また運動方程式はニュートンの運動の第2法則とは結びつけられていなかったことが確認される.さらに、この検討より,静力学と動力学を仮想変位の原理によって統一的な視点から扱おうというラグランジュの試みの背景が伺われる.この歴史的記述の検討を出発点として,オイラーからラグランジュへの展開を解明することが今後の課題である.
|