今年度は、大学における体育実技の授業の中で、学生に他者の運動経過を観察させ、何をその中から見取ったのかを調査した。その際、観察内容と観察者の運動技能レベルや運動経験、指導経験などとの関係を調べた。それらをもとに、どのような指導をすれば観察能力が向上するのかについて研究を進めた。 その研究成果を、第23回日本スポーツ教育学会(於:京都女子大学)において発表した。演題は「"できない"現象の志向分析的視点」である。 体育授業においては、教材としての運動がうまくできない生徒や児童の指導がもっとも重要であることから、運動ができないという現象を単に人間の動きを外から見た視覚的情報として得るだけでなく、運動の構造や特性、状況などとともに、運動を実施している者がどのような意識を持ってその運動に立ち向かっているかということを指導者は把握しなければならない。 その場合、運動の意図や実施の感じ、あるいは実施後の反省などの明確な意識現象だけが問題となるだけでなく、意識に表れてこない無意識の地平というものが分析されねばならない。これが志向分析である。この志向分析がどのようなレベルでできるかということが、運動観察力を支えている大きな要因であることが今回の研究によって確認された。 次年度は、これまで行ってきた研究を総合的にまとめ、教師が児童や生徒の運動を指導する際に必要な専門的能力としての運動観察力はどのような発達過程をたどるのかを考察する予定である。
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