研究概要 |
今年度は,昨年度に引き続きスポーツのわざ(技能)習得に作用する修辞的な言語(「わざ」言語)を実際の指導現場から抽出する作業を実施した.また同時に,そうした修辞的な言語は,1)指導者はどのような意図をもって用いているのか,2)選手にどのように解釈され(受けとめられ)ているのか,及び3)選手のわざ形成にどのように作用しているのか,の3点に注目し,分析を行った.具体的には,研究協力の了解が得られたジュニア体操クラブの指導現場を対象とし,ワイヤレスマイクロフォンによって指導の際に用いられている言語情報を録音し,合わせてビデオ撮影により,非言語的な指導言語情報の記録も行った.更に,録画した映像の中から修辞的な言語が用いられている指導場面を編集し,その映像を手がかりとし調査対象選手に対して行動再検証のインタビューを実施した,収集されたデータの分析により,下記のような点が明らかにされた. 1.動作感覚のネットワーク形成 修辞的な言語指導により,選手は,1)構造が類似した動作への対応づけ,2)象徴となる部分的な動作感覚の想起により,自身が所持する動作感覚を想起し,複雑な動作を単純化し,焦点化し,具象化して捉えている. <部分的な感覚動作からの拡張の例> 教示:「腰をギューンと引けばまわるんだよ」→趣意:「身体を勢いよく遠くへ放り出すイメージを伝えることが目的」→選手の理解:「外側に飛んでいく感じなのですが,できるだけ肩が負けないようにしながら.腕に体重がかかるように」 2.連想物のコード化 修辞的な言語指導から連想される感覚形容語や構造が類似したコードに置き換えて記憶することにより,複雑な動作を一つの動作イメージとして捉えている. <感覚形容語への置き換えの例> 教示:「腰をもってくる」→趣意:「腰を伸ばした状態で後方宙返りを行う」→選手の理解:「足がぐにゃっとなったままではなく,腰に力を入れて伸ばした感じで」 本年度収集・分析した「わざ」言語の伝達場面においては,動作全体を意識しながら,自身が保持する動作感覚記憶が操作されている点が明らかにされた.次年度は,「わざ」言語機能の全体的解明を進めていく計画である。
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