1.目的 剣道の打突力が、身体特に頭部および頸部に及ぼす影響について明らかにするために、被験者(剣道経験者5名:年齢25〜54歳、段位4〜7段)の口部(マウスピース)に3軸加速度計を装着し、その被験者に対し実戦的に打突することにより、加速度変化を計測した。 あらかじめ、自動車衝突用ダミー人形への打突による頭部および口部の加速度の相関回帰式を求め、被験者の口部加速度値を代入することで、頭部衝撃力や頸部の荷重・モーメントを間接的に推測した。 2.結果 ダミー人形への正面打撃による頭部(X)と口部(Y)の平均加速度には、極めて高い相関が認められ、直線回帰式Y=0.9082X+o.4282(r=0.9440)が得られた。また、口部平均加速度と頸部合成力には、同様に高い相関の回帰式Y=9.865+198.52(r=0.9426)が得られた。それぞれの回帰式に、被験者へ打突した場合の、口部平均加速度を代入して、被験者の頭部加速度を推定したところ、面打撃における平均加速度は91.8±31.64m/s^2であり、ダミー人形に比較すると約1.6倍と大きくなった。突き動作でも同様の処理を行った結果、平均加速度は56.0±64.07m/s^2であり、ダミー人形に比較すると約4.7倍と大きくなった。 ダミー人形への打突による頭部の平均加速度は10G以下であり、例え最大加速度で評価しても、面打撃で40G以下、そして突き動作では5G以下の値である。また、本実験の結果から、被験者への加速度推定値は平均加速度が15G以下で、最大加速度でも50G以下であることから、JARIの頭部耐性曲線を参考にして、剣道の打突動作による一回の打突の衝撃が頭部に及ぼす影響を評価すると、頭蓋骨々折・脳震盪といった傷害が生じるレベルには達していないことが明らかになった。
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