研究概要 |
運動よる筋損傷は神経筋の解離を引き起こす可能性がある。また一方では,凍結モデルの実験からは,凍結と同時に筋を激しく収縮させたり損傷を加えた場合,回復期間の短期化が認められた。 本研究課題の最終年度は,この筋損傷の持つ回復の早期化について検討した。 実験方法はラット坐骨神経を冷却した鉄棒で凍結し,さらに筋に挫滅損傷を加え経過をみることとした。凍結後の回復の指標となる間接刺激張力発揮は,凍結と同時に筋損傷を与えた場合と凍結の前々日に損傷を与えた場合には早期化が起きていた。しかし,凍結脚の反対側脚の筋に損傷を与えた場合には早期化は認められなかった。また,筋損傷を与えた場合には7日後に軸索発芽が運動終板上に重複していたが,凍結のみの群,対側損傷群では観察されなかった。凍結させた以降の神経軸索各箇所での活動電位の伝導の有無も調べた。凍結直後から凍結部をまたいだ中枢側と末梢側の伝導性は消失したが,中枢側,末梢側の伝導は認められた。末梢側は凍結1から5日まで完全に伝導性が認められなかった。活動電位の回復は,凍結部→末梢側→接合部の順で起きていたことが明らかとなった。筋内軸索の構造物質を現すNF160,シナプス小胞を認識するsynaptphysinは神経凍結後に一過性の減少し,また軸索の発芽や側枝の延長を誘発するGap43も一過性の低下が,凍結のみと凍結+筋損傷では違いがなくみられた。しかし,凍結後の脊髄運動神経細胞の活性化stat3の変化を調べた結果,凍結群では軸索凍結3日日に神経細胞内のstat3はピークに達しその後下降した。これに対し,損傷を加えた場合では7日後に再び3日目と同程度の発現がみられた。張力や活動電位の観察結果から,凍結により2日後には凍結部の末梢側の軸索も機能的に生存しなくなる。筋損傷を与えることによる回復早期化の原因が,筋内神経・シュワン細胞の損傷による産生物質の影響を受けることはなく,回復速度が早くなる時期は,接合部の再神経支配が起こり始めた段階からの期間であることが考えられた。神経軸索発芽や生存維持に影響を及ぼす運動神経細胞核内stat3発現量の7日後の再上昇を示したことから,一旦解離した神経筋接合部が,凍結部の回復により神経軸索発芽・神経筋の再結合・結合部位の拡大が起こる時期に,筋損傷により発現したサイトカイン系のシグナル伝達物質が早期化に関与していることが示唆された
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