活性酸素は血管内のLDLコレステロールを酸化、変性させ、動脈硬化を誘発することから、血中の抗酸化能力は、動脈コンプライアンスの維持に大きく貢献すると考えられる。しかし、血中の抗酸化能力と動脈コンプライアンスとの関係については明らかではない。本研究では3ヶ月間の軽度なレジスタンストレーニング(ダンベル運動、9種目、10-15回、2セット)が、動脈コンプライアンスにおよぼす影響を血中リポ蛋白濃度、抗酸化能力指標、酸化ストレス指標の変化から明らかにすることを目的とした。 被験者は、健康で高脂血症の疑いが認められない60-81歳の男女、計17名で、全員が特別な運動習慣はなく、非喫煙者であった。動脈コンプライアンス指標は、血圧脈波検査装置(VaeraVS-1000、フクダ電子)によるCardio Ankle Vascular Index (CAVI)を用いた。 HDL-コレステロールはトレーニング後に有意に(p<0.05)増大し、動脈硬化指数(総コレステロール/HDL-コレステロール)は低下したが有意な変化は認められなかった。血管内でのLDLの酸化を示すMDA-LDL濃度は、トレーニング後に低下したが、有意な差は認められなかった。DNA損傷マーカーである血中8-OHdG濃度はトレーニング後に有意に(p<0.05)低下した。これらの結果は、抗酸化指標である総コエンザイムQ10濃度がトレーニング後に有意に増大したことによって組織や細胞レベルでの抗酸化機能が高まったためと考えられ、活性酸素種によるDNA損傷が抑制された可能性が示唆された。CAVIもトレーニング後に低下する傾向があったが有意な差は認められなかった。 これらの結果から、生体内や血管内での酸化ストレスが軽減されたと考えられた。しかし、動脈コンプライアンスや動脈硬化指数に有意な改善が認められなかったため、運動の条件等の影響についても検討していく必要がある。
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