平成14年度では、剣道の構えにおける剣先方向の計測方法について検討を行うために、3次元動作分析システムを用いた剣先方向の測定を実施した。さらに、被験者自身が剣先方向を確認することが可能なレーザー光投射竹刀を試作し、その装置を利用した中段の構えの指導効果についても検討を試みた。その結果、3次元動作分析システムを用いた計測により、竹刀の剣先方向の正確な計測と評価が可能であり、また、指導を受けたグループは指導を受けなかったグループに比べ、より正確に指示された方向に剣先を向けていたことなどが確認された。しかし、これらの成果は、実験室内における、制約された条件下のもとでの結果であり、試合や稽古場面のように、実際に相手と対峙した場合に同じ結果となるかどうかについては、疑問が残った。 そこで平成15年度では、実際の試合場面として、O大学とN大学との定期戦における試合(11試合・22被験者)を2台のカメラで撮影し、3次元動作分析システムを用いて、対峙した相手との相対的な位置関係における剣先方向を求めた。その結果、被験者全員の平均の剣先位置は、対峙した相手の顎の下部から、向かって右に5.2cm、上方へ14.0cmの位置であった。申請者らは過去に、小型ビデオカメラを内蔵した竹刀を作成し、実験室内において防具を装着した人形に対して中段の構えをとらせ、剣先方向の測定を実施しており、その結果剣道部員の剣先方向は、顎の下部から右へ約2cm、上へ約10cmの位置であった。今回の測定結果はこれらの数値と近似していると判断され、剣先方向は、3次元動作分析システムを用いることにより、実験室内での測定と実際の試合場面における測定が同様の結果を示すことが確認された。結果として得られた剣先方向は、相手の左眼に近い位置であり、従来の指導書の記述と一致しており、剣道の攻防における剣先方向の合目的性が示唆された。
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