本年は、自転車エルゴメータを用いて個人の持久的な運動能力を示す無酸素性作業閾値(AT)の推定方法に関する研究を行った。具体的には、ATの理想的な測定条件を多く満たし、一般人でも測定が可能な心拍数を用い、運動と運動の間に休息を挟み運動負荷を上げていく間欠的漸増負荷運動中の心拍数の変動から、ATに相当する運動強度の推定(AT_<HR>)を試みた。そして、AT=最大乳酸定常(Maximal Lactate Steady State :以下Maxlass)の概念を用い、30分間一定負荷自転車駆動テストを行い、乳酸濃度を測定し、また従来の漸増負荷運動の呼気ガス分析からAT測定をおこない、両テストと本テスト(AT簡便決定実験)で推定されたATの妥当性を検討することを目的とした。 結果は以下の通りである。 1)間欠的漸増負荷実験において、運動中の心拍数の測定を行った結果、全被験者において本実験の休息時間中に心拍数の回復の遅延が見られ、運動強度が増すごとに遅延時間が長くなる傾向にあった。この心拍数の遅延を含めた変動によってAT推定法の検討を試みた。 2)低負荷における心拍数のドライブ現象、overshoot現象が起きている負荷および、心拍数にあきらかに異常な変動が起きている負荷を採用しない条件のもと、各負荷における運動終了前10秒間のR-R間隔の平均と、運動終了後5秒間のR-R間隔の平均との差を求めた。その近似式はY=aX+b(a<0)の形となり、切片bの値が本実験におけるATの値(AT_<HR>)であると推定された。 3)AT_<HR>を基準として3段階の各負荷レベルを用いMaxLassの決定を行った結果、AT_<HR>レベルの負荷がMaxLassにほぼ相当すると認められた。さらに漸増負荷テストでの各AT、LTとAT_<HR>との相関関係を見た結果、すべてにおいて高い相関を示した。 4)AT_<HR>を決定する際、被験者によってはばらつきがみられ決定が困難であった。今回の実験では真のATに限りなく近いことがいえたもののAT_<HR>を決定する精度の低さが課題として残ったと言えよう。
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