本研究1年次の主な目標は、地域スポーツ及び学校体育関連の文献レビュー、既存スポーツシステム関係者への意識調査並びに内外の専門諸学の文献研究を通じて、既存の体育・スポーツにおける「公共性」概念の現状と課題を明らかにすることであった。 文献レビューを通じて明らかになったことは、とくに学校体育における世界的な退潮とその公共性に対する危機意識が高まっているのにもかかわらず、それに対応する課題原理が未だに旧来の国家的公共性に対する機能的役割分担を当然とする認識から脱しきれていないため、新たな「公共性」概念の戦略的萌芽が見られないことであった。例えば、カリキュラム改革の視点が現状の説明責任を短絡的、短期的に果たすことによってその「公共性」を担保しようとするのであれば、体操や知識的な分野に傾倒するのは当然であり、この限界を超える新たなカリキュラム改革の視点が主な内容となっているスポーツ分野から構築される必要がある。プレイの公共的概念構築の課題がここでも指摘される結果となった。また、既存スポーツシステム関係者へのインタビューあるいはサッカーくじの動向や日本体育協会の組織的対応等を通じて明らかになったことは、わが国のスポーツシステムが従来の官主導から民・産主導へシフトすることを求められていることについて理念的には理解されているものの、未だにその具体的なシステム戦略が見えてこないばかりか、現状ではシステムの混乱が生じているということである。これは具体的には、(1)学校運動部問題における教育システム管理者側の極端な地域依存志向にみられる無責任な傾向、(2)総合型地域スポーツクラブ創設における既存スポーツ団体の閉鎖的な利害志向と受益者側の「受益」意識の欠如にみられるフリーライダー的な傾向、(3)サッカーくじ資金をめぐって従来の公的資金の使命が退潮して民間資金一辺倒に流れると同時に、各競技団体の利害志向が剥き出しになっている傾向、等々である。公共性を担保する官から民への理念的移行と現状システムの齟齬をどのような具体的戦略システム・モデルによって克服していくのかが2年次の課題となる。
|