脊髄損傷(脊損)者の発汗機能は脊損レベルに依存しており、対麻痺者の多くは下肢に発汗が認められなり。さらに損傷レベルがTh6以上になると下肢だけでなく上半身の発汗も損なわれる。このような脊損者が暑熱環境下において運動を行うと、体温上昇が顕著となり運動パフォーマンスが低下することになる。体温上昇を抑制する効果的な方法として、運動中の飲水および冷却ジャケットの着用がある。本研究の目的は、暑熱環境下での運動中水分摂取および冷却ジャケット着用が脊髄損傷者の体温調節反応におよぼす影響を明らかにすることであった。被験者は脊損者男子6名で(L1〜Th6)であった。被験者は約25℃(相対湿度50%)に設定された部屋に入室し、まず実験前の体水分状態を標準化するために体重の0.5%のミネラルウォータを摂取した。被験者はこの部屋で1時間椅座位安静を保ち、その間皮膚温および心拍数測定用電極を貼付し、最後の5分間に基礎データを収集した。その後、室温約33℃、相対湿度約80%に設定された人工気象室に移動し、さらに30分間の安静を保ち、続いて20ワットの負荷で腕回転運動を30分間行った。運動中、鼓膜温を5分毎に、前額部、胸部、上腕部、大腿部および下腿部の皮膚温および心拍数をそれぞれ1分毎に測定した。また、実験開始前後に全裸体重を測定し発汗量を求めた。実験は飲水なし(ND)、飲水(D)および飲水と冷却ジャケット着用(DJ)の3条件であった。飲水量は肺条件下での発汗量とし、運動開始直前に半分を飲み、さらに15分経過後に残りの半分を摂取した。どの条件においても鼓膜温は上昇したが、DJ条件での上昇が最も小さく、運動終了時にはNDとDJ条件間で有意差が認められた(p<0.05)。上腕部および大腿部の皮膚温もDJ条件が低く、上腕部ではNDとDJ条件間に有意差が認められた(p<0.05)。全発汗量はDJ条件では190gであり、NDおよびD条件の約300gより有意に低い値であった(p<0.05)。また、心拍数においてもDJ条件の方が他の条件より有意に低い値であった(p<0.05)。飲水に加え冷却ジャケットを着用すると、循環系の負担が軽くなり、さらに体の許容蓄熱量に余裕ができ、運動中の体温上昇が抑制されることが明らかとなった。
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