脊髄損傷者(脊損者)の発汗機能は基本的には脊損レベルに依存しているとされているが、これまでの研究では脊髄損傷(脊損)レベルと発汗障害部位および発汗量の関係については明確にされていない。特に暑熱環境下における運動時の発汗応答に関する研究はほとんど行われていない。そこで、本研究ではまず脊損レベルと発汗部位との関係を明らかにすることを目的とした。また、暑熱環境下での運動中の飲水により発汗および体温がどのように変化するのかを健常者と比較し、さらに冷却ジャケットが脊損者の体温冷却にどれほど有効な手段なのかを検討した。対象とした被験者は成人男子で、損傷レベルはL1〜Th6であった。暑熱環境に暴露した際の安静時局所発汗量は脊損レベル別および部位別による顕著な違いが観察された。前額部、胸部および腹部では全被験者において明らかな発汗が観察された。一方、大腿部および下腿部では発汗量は少なく、Th6およびTh7の被験者では発汗がまったく観察されなかった。暑熱環境下における運動時の全発汗量は運動30分後および運動終了時とも、上位脊損者群が低い値を示した。しかし、下位損傷者群と比較して統計的有意差は認められなかった。大腿部および下腿部皮膚温は上位損傷者群が有意に低い値を示したが、前額部、胸部および上腕部の皮膚温には有意差は認められなかった。また、鼓膜温は両群に有意差は認められなかった。局所発汗は脊損レベルの影響が顕著であったが、全身発汗量はそれほど損傷レベルの差は認められず、その結果暑熱環境下の運動時体温調節において上位脊損者群と下位脊損者群には顕著な差はないと結論することができる。脊損者に対する体温冷却効果は健常者と同様に、飲水に加え冷却ジャケットを着用すると、循環系の負担が軽くなり、さらに体の許容蓄熱量に余裕ができ、運動中の体温上昇が抑制されることが明らかとなった。
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