身体運動による生活習慣病の予防・治療による健康増進効果は誰もが認めることである。しかし、その機序はほとんど明らかではない。本研究では、骨格筋の糖代謝能を律速していると考えられている糖担体GLUT-4の身体運動・トレーニングによる発現量の増加の機序に関与している可能性のあるPGC-1 (peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1)の身体運動による発現量増加の機序を解明することを目的とした。 【方法】 (1)実験1.5〜6週齢のSD系雄ラットに無負荷で3時間の水泳運動を45分の休憩を挟み2回、計6時間水泳運動を行わせた。運終了動直後にこれらのラットから前肢筋のepitrochlearisと後肢筋のヒラメ筋を摘出し、核分画抽出後、ウエスタンブロット法によりPGC-1量を測定した。 (2)実験2.4-5週齢のSD系雄ラットからepitrochlearisを取り出し、AMPKの活性化剤であるAICAR(2mM))で、18時間インキュベーションし、その時のPGC-1のmRNA濃度をRT-PCR法で測定した。 【結果】 (1)実験1.6時間の水泳運動後、主働筋epitrochlearisのPGC-1濃度は75%増加したが、非活動筋ヒラメ筋のPGC-1濃度は変化しなかった。 (2)実験2.AICARで18時間インキュベーションしたepitrochlearisのPGC-1のmRNA濃度はAICAR非添加の場合に比べて7倍高かった。 【考察及び結論】 身体運動後のPGC-1の発現が身体運動中に動員される筋にのみ観察されるという結果は、PGC-1の発現が、交感神経系の活動のように体全体に及ぼされるものではなく、活動する筋内で惹起される情報伝達系が関与していることを示唆していると考えられる。また、実験2の結果は活動筋に特異的PGC-1の発現の機序として、運動により上昇するAMPKの活性が関与していることを示唆していると考えられた。
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