研究概要 |
DNAの転写補助因子であるPGC-1αが身体運動により増加する機序を明らかにするために本実験を行った。まず、5〜6週齢のSD系のラットをトレッドミルで6時間,低強度(分速13m)の走行運動させたところ、運動後のグリコーゲン濃度が有意に低下した後肢筋(ヒラメ筋,足底筋)ではPGC-1α濃度が増加したが、グリコーゲン濃度が変化しなかった前肢筋(epitrochlearisと三頭筋)ではPGC-1α濃度に変化は見られなかった。一方、6時間の低強度(無負荷)水泳後では逆に、グリコーゲン濃度が低下した前肢筋(epitrochlearisと三頭筋)では、PGC-1α濃度が増加したが、グリコーゲン濃度に変化が見られなかった後肢のヒラメ筋や足底筋では、PGC-1α蛋白質濃度に変化が見られなかった。これらの結果より、身体運動により動員された筋にのみPGC-1αの発現が見られることが明らかになった。 次に身体運動により骨格筋のPGC-1α濃度が増加する生化学的機序を明らかにするための実験・研究を行った。摘出したepitrochlearisを試験管内で電気刺激した6h時間後にPGC-1αのmRNAが増加した。また、試験管内でepitrochlearisを、AICAR(AMPKの活性化剤)及びカフェイン(筋小胞体からのカルシウム放出を引き起こす)で18時間インキュベーションするとepitrochlearisのPGC-1αのmRNA及びタンパク質濃度が有意に増加した。一方、ヒラメ筋のPGC-1α濃度はAICARでのインキュベーションでは増加しなかったが、カフェインでは増加した。この結果は、身体運動による骨格筋のPGC-1α増加には、エネルギー準位の低下によるAMPKの活性化とカルシウム濃度の増加という少なくとも2つの機序があり、その関与は筋線維組成によることが示唆している。
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