本研究の目的は、遅発性筋肉痛を実験的に引き起こすモデルを用い、遅発性筋肉痛発現のメカニズムとその意義について解明することであった。2年間にわたる研究において、昨年度は、「遅発性筋肉痛の程度と筋損傷との関係」について検討し、筋肉痛の程度は筋損傷の程度を反映しないことを明らかにした。また、遅発性筋肉痛が生じることの意義について検討した結果、筋の適応過程において筋肉痛は必ずしも必要ないことを明らかにした。 本年度は、「加齢に伴い筋肉痛が遅れて出るようになる」のかどうかを検討した。18-22歳の被験者と40-50歳代、60-70歳代の被験者に、相対的な強度が等しくなるようにダンベルを設定し、上腕屈筋群に伸張性運動を負荷した後の筋肉痛を比較した。その結果、筋肉痛が発現するタイミングには年齢の違いによる差は見いだせなかった。遅発性筋肉痛が発現するタイミングには年齢差というより個人差が大きく、また、運動の種類や強度、筋肉による違いが大きいことも別の実験から明らかになった。さらに若年者の遅発性筋肉痛について調査した結果、興味深い事に、幼稚園児や小学校低学年では、遅発性筋肉痛が生じにくく、小学校高学年から生じやすくなることも明らかとなった。 これらの結果は現在論文にしているところであり、平成16年度の国内外の学会で発表していく予定である。 遅発性筋肉痛の予防、対処法についても検討したが、激しい運動や普段やり慣れない運動や動作を行った後に筋肉が痛くなるのは自然なことであり、予防するには、いきなり無理して大きな負荷をかけたり、普段やっていないような運動をいきなり行ったりせず、徐々に負荷をあげることが、最善であることが明らかとなった。 筋肉痛に関しては、誤った情報も多いので、これまでの研究結果から明らかになったことを「筋肉痛のはなし」という小冊子にわかりやすくまとめ、トレーニング科学研究会の協力を得て4月中に出版し、無料配布することになっている。
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