遅筋線維の発達に関与するとされるCa^<2+>依存性タンパク質脱リン酸化酵素、カルシニューリンの役割を明らかにするために、カルシニューリン情報伝達系に関与する遺伝子の発現を遅筋線維と速筋線維で比較した。その結果、カルシニューリン活性を抑制するMyocyte specific calcineurin inhibitory protein 1(MCIP1)mRNAの発現が、速筋線維に比較して遅筋線維で数十倍高いことを見出した。この発現量の差異と筋線維分化の関係を調べるために、骨格筋に対する支配神経を切断したところ、MCIP1 mRNA発現量の差は、遅筋・速筋線維の分化に依存することがわかった。さらに、マウスやラットに急性運動を負荷した実験より、骨格筋におけるMCIP1 mRNAの発現は、運動後数時間から一過性に強く誘導された。MCIP1遺伝子の転写制御を解析したところ、カルシニューリンによって活性化される転写因子(NFAT)が直接MCIP1遺伝子のプロモーターを活性化しており、MCIP1 mRNAの発現変動が骨格筋におけるカルシニューリン活性を反映することが明らかになった。そこで、トレッドミルを用いてラットに急性運動を負荷し、MCIP1 mRNA発現誘導と運動強度の関係を検討した。その結果、急性運動後4時間でMCIP1 mRNA発現は、非常に低強度(12m/分で10分間)の運動で誘導され、運動時間に比例して増大した。また、スピードを変化させて(8〜16m/分)計120mの運動を負荷したところ、いずれのスピードでも同程度のMCIP1 mRNAの発現が誘導された。以上より、非常に低強度の運動でも骨格筋のカルシニューリン情報伝達系が活性化されることが明らかになった。
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