研究概要 |
本研究は、活動中の筋から静脈への血液の流出を定量し、動脈から筋への血液流入との関係を検討することにより、運動時の血液循環調節における静脈血流の役割を明らかにすることを目的とした。被験者は仰臥位で静的掌握運動を行い、超音波M-mode法により、上腕静脈と上腕動脈の血流量を測定した。同時に、対側肢で血圧(Finapres)を,橈側と尺側の前腕屈筋群から近赤外線分光法(NIRS)により、筋血液量を測定した。運動は1)10%,30%,50%MVC強度の張力を5秒間発揮する、2)50%MVC強度で2秒間の筋収縮を15回/分の頻度で60秒間実施するものであった。上腕静脈血流量は、筋活動開始時に顕著に増加し、筋収縮持続中はそれよりやや低いレベルを維持したが、終了時には低下した。運動開始時と運動中の上腕静脈血流量は、強度が高いほど高値を示した。次に50%MVC強度の静的掌握運動を間欠的に15回繰り返して、筋活動中と筋活動中止中の上腕動脈と静脈の血流速度と血流量を比較した。筋活動中は上腕動脈の血流速度が低下し、血流量も減少するのに対して、静脈の血流速度と血流量は増加した(〜100ml/min)。それに対して、筋活動中止期には、動脈側の血流量が増加する(〜300ml/min)のに対して、静脈側では低下した。筋活動中止期の動脈血流速度は時間経過に伴って増加する傾向を示したが、筋活動中の静脈血流速度の変化は明らかではなかったNlRS法によって得られた前腕筋群の筋血液量は、活動開始時に一旦減少し、その後漸増した。これは、筋での血液の出入バランスが崩れ、血液量が増加する傾向にあることを示唆している。筋でのこの現象は、血流速度と血流量の時間経過に伴う変化が上腕動脈と静脈間で相違が見られることと関連していると考えられ、今後は、それが静脈、動脈のどちらに起因した変化であるかを明らかにする必要がある。
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