研究概要 |
本研究は、筋のポンプ作用により、活動筋から流出する静脈血流量を定量し、運動時の血液循環調節における静脈血流の役割を明らかにすることを目的とした。被験者は若年女性6名であり、仰臥位で間欠的な掌握運動を行った。測定項目は超音波ドップラー法とM-モード法による上腕静脈と上腕動脈の血流速度と血流量、血圧(Finapres)及び近赤外線分光法による筋血液量・酸素化ヘモグロビン量であった。運動は50%MVC強度で2秒間の筋収縮を15回/分の頻度で60秒間繰り返すものであった。上腕静脈血流速度は、筋活動時加速され、安静時の9.5±1.8cm/秒に対して、運動終了前には21.6±3.7cm/秒(p<0.05)となった。筋活動が休止する時相での静脈血流量は、安静時とほぼ同レベルに回復した。動脈の血流速度は安静時(17.4±2.7cm/秒)でも静脈血流速度より速く、特に筋弛緩期には顕著に増加して101.0±9.6cm/秒となった。超音波Mモード法で測定した血流量は動静脈共に、筋収縮・弛緩に伴って血流速度に対応した変動を示した。そして、1分後には上腕動脈血流量は158.9±48.5ml/minとなった。それに対して,筋活動期の上腕静脈血流量は65.5±22.0ml/minと有意に低値であった。時間経過を追って比較すると、静脈血流量は運動開始と同時に増加するのに対し、動脈血流量は徐々に増加して、静脈血流量を上回るようになる。すなわち、運動開始時には、筋からの流出量が流入量を上回り、運動が持続すると流入量が流出量を上回る結果になった。この結果は、近赤外線分光法で測定した酸素化ヘモグロビンと血液量(総ヘモグロビン量)が、経時的に漸増することと一致しており、血液の流入/流出バランスは、開始時には流入よりも流出量が、運動が持続するにつれて流入量増加に傾くことが示唆された。
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