研究概要 |
本研究は、活動中の筋からの静脈血流量を定量し、筋への動脈血流入量との関係を検討することにより、運動時の血液循環調節における静脈からの血液流出の役割を明らかにすることを目的とした。被検者は成人女性6名(年齢26.3±3.8歳)であり、椅座位での掌握運動時に、超音波M-mode法と超音波ドップラー法によって、上腕静脈と上腕動脈の血流量と血流速度を測定した。また、血圧(Finapres)と,橈側と尺側の前腕屈筋群の筋酸素動態と筋血液量(近赤外線分光法)を測定した。運動は1)10%,30%,50%,70%MVC強度の票力を5秒間発揮する、2)50%MVC強度で2秒間の筋収縮を15回/分の頻度で60秒間実施するものであった。上腕静脈血流量は、筋活動開始時に顕著に増加し、筋収縮持続中はそれより低レベルを維持した。運動開始時の上腕静脈血流量は強度が高くなると増加する傾向を示したが、5秒間の平均値では強度間に有意差がなかった。それに対して、動脈血流量は運動中には強度間の差はみられないが、運動終了後の値は高い強度で有意に増加した。次に50%MVC強度の静的掌握運動を間欠的に繰り返すと、筋活動中は上腕動脈の血流速度が低下し、血流量も減少するのに対して、静脈の血流速度と血流量は増加した。それに対して、筋活動中止期には、動脈側の血流量が増加し、静脈側では低下した。また、時間経過に伴う変化は、運動開始20秒以降、動脈側で有意に増加し、増加の少ない静脈との間に、速度・量共に有意差が見られた。そして、運動中全体の動脈血流入量は静脈血流出量より有意に高くなった。一方、NIRS法による前腕筋群の筋血液量も、活動開始時に一旦減少するが、その後漸増した。以上の結果から、強度の高い短時間運動や、運動が持続した場合には筋活動による静脈血流出量を、運動後の動脈血流入が上回り、筋での血液量は増加することが明らかになった。
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