本研究の目的は、ヒトが随意的に力を発揮する際の運動単位発射様式を様々な筋において解析することによって、力調節の神経制御メカニズムの筋間異同性を明らかにすることである。この目的を達成するため、大きな近位の筋の代表として内側広筋を、一方、遠位の小さな筋の代表として小指外転筋を被験筋とすることとした。平成14年度においては、内側広筋を対象として実験をおこなった。被験者は述べ10名であった。被験を実験用椅子に座らせ、右膝を90度に固定し、等尺性条件下における膝伸展力発揮をおこなうよう指示した。随意最大収縮測定後、被験者の約1m前方に設置したモニターに、力発揮目標ラインを提示し、力追跡課を課した。力発揮目標は、1)記録開始1秒後から2秒かけて50%MVCまで力を漸増する相(力漸増相、25%MVC/秒)、2)5秒間の力保持相、および3)2秒かけて0%MVCまで力を漸減する相(力漸減相、-25%MVC/秒)の3つの相からなる台形状とした。各被験者にこの課題を5試行おこなわせた。この試行を遂行中に、右内側広筋に刺入した四極ワイヤー電極から筋内電気活動を双極電位として3チャンネル同時記録し、力信号とともにコンピュータに取り込んだ。記録された複雑な筋内電気信号をPrecision decompositionを用いて運動単位活動電位波形を同定し、各運動単位について動員閾値、発射頻度および脱動員閾値を測定した。その結果、12個の運動単位を同定することができた。同定された12個の運動単位発射列から、高閾値の運動単位は、低閾値の運動単位よりも平均発射頻度が低いという傾向が観察された。また、動員閾値と脱動員閾値との間には、強い正の相関関係が認められた。以上の結果は、内側広筋においても、"Common drive"(De Luca & Erim 1994)が存在することを示唆している。2年目においては、内側広筋に加えて小指外転筋における運動単位発射様式の解析をすすめる予定である。
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