本年度は、栗の生産に関する統計資料の収集、文献調査、分布状況の把握、明年度以降の現地調査のための予備的調査を中心にすすめ、以下のような成果を得た。 (1)日本の栗生産は、少なくとも昭和初期頃までは、全国的に林業副産物として採集される傾向がみられた。一方、商品化を目的とした園芸的な栽倍もすでに萌芽をみており、まもなく第2次世界大戦前から昭和30年頃にかけて産地形成の動きがみられた。しかし、この間に林業副産物としての栗生産は大きく後退した。 (2)園芸的に栽培されるようになった今日では、林業副産物としての栗生産が主流を占めていたときと比べて、栽培地域の分布形態に大きな変動がみられた。すなわち、栗生産は全国的に及んでいた段階から、関東以西の西南日本を中心とするようになった。その結果、栽培栗は西日本に林業副産物としての栗は東北日本に分化するような傾向が確認された。 (3)東北地方では、おそくまで林業副産物としての栗生産が残存していた。理由として、旧藩時代には栗が米作の冷害対策(補完作物)として奨励され、また栗樹自体が材として重要視されていたこと、さらに近代以降の商品作物生産時代に薪炭生産が増加したとき、栗はその対象とはならずに取り残されたことなどの要因が推察された。 (4)今日の栗産地のタイプとしては、果樹としての栗栽培地域以外に、和菓子製造会社が独自に産地形成を図っている例、製造会社が各産地から栗を集荷して産地が維持されている例、兼業農家による土地温存の手段として栗栽培が行われている例、などが存在することが判明した。
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