今日の「都市型社会」の形成は、農林業地域に対して労働力不足や生産者の高齢化、生産物価格等の面で深刻な問題を提起している。本研究では稲作以前からのわが国の土地利用型作物であるクリを事例として、その歴史的動向の整序と今日の実態解明をすすめた。 (1)日本列島ではほぼ全国に自生するシバグリが、縄文時代以来高度経済成長期に入る頃まで、食糧や木材、薪炭材等に多面的に活用されてきた。一方、稲作導入以後畿内の古代都市周辺に大粒の丹波系クリの生産が萌芽し、藩政時代にはそれが関東周辺にも普及した。こうした丹波系のクリの栽培は、明治以降とくに昭和初期頃には果樹として注目され、戦後の高度経済成長期になると遠隔の中山間地域をはじめ全国的に増殖され、飛躍的な発展をみた。 (2)しかし、高度成長終焉後の都市型社会が進展する過程で、クリ生産は一転して減少をみるようになり、今日ではその栽培地域も急速な縮小基調にある。ただし、クリ生産を持続している地域では、従来のクリ栽培のイメージを一新するような対応を取り始めていることが明らかになった。クリの低樹高栽培の技術が確立され、その方式が各地に普及したことが、大きいな特徴である。そこには、良質グリを求める実需者(菓子メーカー)の期待と生産者の課題を同時に解決する意味が込められている。 (3)新しい経営の傾向として、地域により (a)低樹高のクリを機械管理する専業的クリ生産のタイプ、(b)実需者が独自にあるいは生産農家を支援するタイプ、(c)低樹高栽培を取り入れ、限界的な山間傾斜地の生産者が実需者と契約栽培するタイプ、等が見いだされた。これらのうち(c)は生産を期待されながらも、労働力流出間題が深刻で、発展は望めないかもしれない。しかし(a)と(b)の両タイプは将来の農業の展開を考える上で、重要な方向性を示唆しているように思われる。
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