研究概要 |
昨年度,北海道・東北に立地する情報サービス企業に対して行ったアンケート調査に基づいて,分析を行った.情報サービス企業の創業者に関する研究では,創業者の移動経歴によって,起業の過程やその後の経営のあり方が異なっていることを示した.例えば最大の顧客の立地場所を創業者の移動類型別にみると,地元定着の創業者の企業では,もっぱら周辺の企業と取引しているのに対し,Uターンや他地域出身の創業者の企業では,ともに最大の顧客を東京大都市圏内に有する企業が約3割に上った.また,他地域出身の創業者の企業では創業資金が相対的に多く,自宅以外にオフィスを構える例が多いほか,創業者の右腕となる社員がいる割合も高い.これに対してUターンでは十分な創業資金が得られないまま自宅で創業に至る例が多く,創業者の右腕となる社員を欠く企業も多い.創業者の移動経歴ごとにみられるこうした違いは,他地域出身者の企業において売上高の伸び率の高い企業が多いこと,Uターン者の企業では売上高の少ない事例が目立つといった経営状態に反映している可能性を指摘した. 続いて情報サービス企業の従業員である情報技術者について,移動と技術水準の二側面から分析した.地方圏において,広域中心都市へと向かう情報技術者の移動は,進学や就職に伴うものか,大都市圏での勤務を経験した者の還流移動が中心であった.転職に伴う移動は,県内で行われるローカルなものが中心であり,これに大都市圏-地方圏間移動といったナショナルな空間スケールの移動が続き,その中間に位置する地域ブロックレベルでの県間移動は,活発ではない.大都市圏と地方圏を比較した場合,情報技術者の技術水準は大都市圏の方が高い.しかし大都市圏での勤務経験を有する情報技術者は,大都市圏の高度な技術を地方圏にトランスファーする媒体となり得ておらず,むしろ高い技術水準を持った情報技術者は,大都市圏にとどまったままである可能性が強いことを示した.
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